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2011年01月21日 松濤美術館「大正イマジュリィの世界」展 [お勉強(博物館・美術館)]

2011年01月21日 松濤美術館「大正イマジュリィの世界」展

1月21日(金) 晴れ 東京 7.4度 湿度 37%(15時)

渋谷区立松濤美術館で開催中の「大正イマジュリィの世界-デザインとイラストレーションのモダーンズ-」展を見に行く。
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「イマジュリィ」とは、英語の「イメジャリー(imagery)」に相当するフランス語で、「大衆的複製図像」という意味だそうだ。

したがって、「大正イマジュリィ」とは「大正時代(1912~26)に巷に氾濫し、人々の記憶に刷り込まれていった『複製図像(イメージ)』の総称」ということになる。

デザインやイラストレーション、具体的には、本の装丁、小説の挿絵、ポスター、絵はがき、広告、漫画、写真のようなポピュラー・カルチャーのことらしい。

地下1階の第1展示室では、以下の13人の作家の作品を作家別(生年順)に展示する。

藤島武二(慶応3~昭和18 1867~1943)
杉浦非水(明治9~昭和40 1876~1965)
橋口五葉(明治14~大正10 1881~1921)
坂本繁三郎(明治15~昭和44 1882~1969)
竹久夢二(明治17~昭和9 1884~1934)
富本憲吉(明治19~昭和38 1886~1963)
高畠華宵(明治21~昭和41 1888~1966)
広川松五郎(明治22~昭和27 1889~1952)
岸田劉生(明治24~昭和4 1891~1929)
橘 小夢(明治25~昭和45 1892~1970)
古賀春江(明治28~昭和8 1895~1933)
小林かいち(明治29~昭和43 1896~1968)
蕗谷紅児(明治31~昭和54 1898~1979)

幕末生まれの藤島武二を除けば、生まれ明治時代で、大正時代に青年~壮年期をすごした人たち。

19世紀の西欧近代文明をひたすら移入して近代化に突っ走った父親たちの世代が築いた「明治」という時代に反発を感じて、「大正」という新しい時代の文化と芸術を模索した世代ということになる。

こうやって作品を並べて見ると、その質と量、それに「華」という点で、やはり竹久夢二が抜けている。
次いで、高畠華宵。

そして、その次に目に入ってきたのが、近年、注目の「京都アール・デコ」の小林かいちの作品。

イラストレーションというものは、やはり目に入るかどうかが重要。
その点、かいちの作品はすばらしい!
省略された線で、これだけの情感を表現できるとは・・・。

小林かいちは、本名を小林嘉一郎といい、「小林歌治」という名で京都で着物の図案職人をしていた人で、大正12年頃から昭和16年頃(1923~1941)まで、三条新京極にあった「さくら井屋」という店に絵葉書や封筒などのデザインを提供していた。
当時は「かいち絵葉書」「かいち絵封筒」として、修学旅行の女学生たちの人気をあつめていたが、美術史的にはまったく顧みられることがなかった。

ところが、近年、「尖端(モダン)京都」の研究が進むにつれて、「京都アールデコ」の旗手として再評価が始まり、謎に包まれていた経歴がやっと明らかになりつつある人物。
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↑ かいち絵葉書「カーテンの影に」
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↑ 女学生の京都土産用の「かいち便箋」(複製)

私は、研究会仲間の斎藤光さんが「尖端(モダン)京都」の研究を進めていること、かいちが着物デザイナーであったことなどで、以前から関心があった。
今回、作品をまとめて見ることができて、うれしかった。

それにしても、小林かいちは、どうやってこのセンス(最先端のアールデコ)を身につけ磨いたのだろう?
小林かいちを巡る謎はまだ多い。

小林かいちの作品は、群馬県渋川市の「伊香保・保科美術館」に多数収蔵されているそうだ。
今度、ぜひ訪ねてみたい。
http://www.hoshina-museum.com/
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↑ 山田俊幸監修『小林かいちの魅力 京都アール・デコの発見』(清流出版、2009年)

「女・子ども向け」のイラストレーションやまじめな文学書・雑誌の装丁などの作品がほとんどの中で、異彩を放っていたのは、橘小夢。

明らかに作風に「あやしい」というか「危ない」ものがある。
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↑ 「版画・水魔」(昭和7年頃) 
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↑ 「さゆめ版画集・刺青」(大正12年頃)、背中に大きく蜘蛛を刺青された女性。
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↑ 十一谷義三郎の小説「唐人お吉」の挿絵(昭和10年)

橘小夢は、「秋田魁新報」の創業者の息子として生まれ、洋画を黒田清輝、日本画を川端玉章に学んだ。
先天性の心臓弁膜症を患っていて生涯病弱だった(その割には78歳まで長生きしている)。
そのため、作風に幻想的かつ暗いイメージがある(ということになっている)。

う~ん、そうなのかぁ? もっと本質的に「危ない」人なのではないのかぁ?
と思って調べたら、やっぱり、春画(連作)も描いていた(↓)。
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もちろん、今回の展覧会では、そのことにはまったく触れていないが・・・。

第2展示室(2階)は、「さまざまな意匠(デザイン)」と称してテーマ別の展示。

エラン・ヴィタルのイマジュリィ
浮世絵のイマジュリィ
震災のイマジュリィ
子ども・乙女のイマジュリィ
怪奇美のイマジュリィ
京都アール・デコのイマジュリィ
尖端都市のイマジュリィ
新興デザインのイマジュリィ
大衆文化のイマジュリィ

あまり見たことがなく、興味深かったのは「震災のイマジュリィ」。
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↑ 竹久夢二「噫東京」(大正13年)
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↑ 北沢楽天「大震災一周年」(大正13年)

ところで・・・。
館内は、高齢の女性が目につく(と言うかほとんど)。
というのも、「60歳以上の方、無料」だから。
もちろん、ほんとうに好きで見に来ている方も多いのだろうが、様子を見ていると、明らかにそうでない人も・・・。

やはり、「ただ(無料)」は、まずいのではないだろうか?
こういう物は、たとえ50円、100円でも「払う(有料)」にすべきだと思う。

私も、あと5年生きれば無料になるのだが、通常の入館料300円をただにしてもらう必要性も理由もまったく感じない。

300円払っても、自分が見たいものかどうかという価値判断はちゃんとするべきだと思うから。


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